KojimaDaigo BLOG

日常絵話 NichijoKaiwa

ニューヨークで何があったのか

 絵が上手で多少の驚きと珍しさのほかに、私の周りには、絵を描くなんてのは「いけないこと」のようなモノの見方があったことも、もう一つ確かだった。そんなことしても苦労するばかりで儲からないよ、というわけだ。
 自分ですすんで「絵の仕事につこう」と決意し絵を描いていたものの、一部に好意的に見る人もいるにはいたのだろうが、1990年のその当時は、高度経済成長を経てオイルショックのあとのバブル景気で「儲けること」「儲かること」こそ正しく、金持ちならばいざ知らず、庶民が絵を描くのは分不相応で全く時流に合わず、まして何の下地もなく、不確かで、何の用も為さない、従って周囲の関心も無いという、三拍子も四拍子も揃ったかなり堅い空気が私の周囲にはあった。
 それによくあるパターンならば美大に入り直すとか、偉い画家の師匠につくとか、悪くてもそうした組織に属して仲間を作るとかして学び始めるものだろうが、何しろ「腕に覚え」があるのみで、相変わらず純粋美術に対する理解もほとんどゼロのまま。
 だからどうしたらいいのか頭ではよく分かっていないまま、ともかく毎日ウチで絵を描き始めた。そこのところ今考えても全くもってイタイ奴だ。痛々しくて悲しくなるほど。

 純粋美術とは違うが、応用美術であるイラストレーション(挿絵)の専門雑誌で知ったゲーリー・ケリーというアメリカで活躍するイラストレータ

●ゲーリー・ケリー 参考サイト



の作風が際立って好きで、アメリカ人の彼が講師をやっているアートスクールがニューヨーク(以下、NY)にあると知った。日本で彼のイラストを見かけることさえほとんどないが、なぜかアンテナがキャッチしていた。
 地元名古屋の留学相談センターで、音楽やダンス、アートなどの実技系留学ならば一か月くらい短期語学留学を兼ねてほかにあちこちあるアートスクールを視察に回ると良いときき、1993年、意を決して25歳の時に
NYへ四週間滞在してみることになった。初めての海外旅行であった。
 会社を辞めて渡米したせいか、憧れが強かったのか、NYというのは思い描いたそのままの自由な感じのいきいきとした街だった。四週間というのも今考えれば良いところだけ感じ取ってくるのにちょうどいい期間だったのではないだろうか。

 1993年のNYといえば、その後敏腕を振るって犯罪を激減させるジュリアーニ市長が就任する以前であり、まだ地域によっては銃声が響きわたるのも度々で、地下鉄は落書きだらけで車内でホームレスがいわゆる「ホームレス新聞」を売り歩いていた。携帯電話も一般に普及しておらず、ワールドトレードセンターは当時健在だったものの爆破テロ事件があったりした。
 なんか悪い話ばかり書いているけど、ここへ来る前も来た後もそういうものだと思い込んでいた。でも街の人は明るく、知らない人同士でもすぐに冗談を言い合い雑談に花が咲く(実際よくあった)、気取らない下町の印象だった。
 日本人にとってNYのイメージといえば洗練されていて金融でも芸能でも成功者のきらびやかなものかも知れない。私は中学生の頃ビリー・ジョエルの歌でこの街のことを知ったようなものだった。彼の歌うNYというのは、多様性に富みその相互作用、シナジー効果のようなもので知恵と活力が大きく働き者の街、まさに彼の「When In Rome」という歌の内容そのものだった。いわく「ハンマーを振り下ろして石を砕け  ボタンを押して電話に出ろ  朝にはコーヒー夜にはマティーニ  誰もがものすごい食欲だ  何はともあれ『郷に入れば郷に従え』…(山本安見 訳)」、涙は見せず、笑う時には大声で少し下品に笑う、世界のあらゆる文化を受け入れ人材の層が厚く、クールというよりパワフル、といったものだ。またNYで生まれ育ったビリー本人は昔ラジオ番組のインタビューで「ロサンゼルスでは隠れて嘘をつき、NYでは正面切って騙す」とブラックなご当地のことわざを紹介してNYを言い表していた。

 マンハッタンの品の良い老婦人のマンションで暮らし(ホームステイ)し、平日は語学学校で学び、午後2時3時位からいろんなアートスクールを回る。日本人の学生がいれば紹介してもらい話を聞くことも出来た。週末も色んな所へ出掛けるという日々。10月だったので屋外でも過ごしやすい季節だった。
 そして観光のつもりでメトロポリタン美術館に行った時にそこで偶然、ウィンスロー・ホーマーという19世紀の画家の風景画を見つけてしまったのだ。最初に見たのは「Gulf Stream(ガルフストリーム)」
だった。
 そこでおそらく初めて絵画鑑賞に快感を覚えた。
●ウィンスロー・ホーマー 参考サイト:

 そのほかにもいくつかホーマーの絵を観て私が感じたのは、技術的にはどうか分からないが、鋭くて強くて、温かくて優しくて大らかで懐かしいような、あるいは「良心的」とでも言おうか、ともかく何と言っていいのか分からないが、圧倒的な良さがあった。
 「Northeaster(ノースイースター)」は
倉庫のようなガラスケースにはいっていた。その時ふと思った。こんな古臭い絵なんてきっと流行らないだろうし、これが好きだという人はひょっとしたら世の中にいないのかも知れないが、アメリカは一応自由の国なんだから、世界で俺だけ好きだと言ってもいいのだ。元々絵画というものは誰が何と言おうと、人の顔色など見なくともいい個人的な世界なのだから、そういう自分はオカシクも何ともないんだ、などと考えていた。
(つづく)


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